17歳の娘お照と10歳の少年がひょんなことからコンビになり、 ある事件の下手人を追って江戸の町を奔走する!!
●あらすじ・内容
ある髪結いの死体が見つかった。その骸はお照が同業であると告げ口した女らしかった。
女髪結いが咎められる世。生業を明かされたことを恨んで殺したのではないかーーお照は人殺しの濡れ衣を着せられてしまう。
疑いを晴らしたければまことの下手人を捜すよう同心に命じられたお照。その命令には何か裏がありそうで・・・・・。
己のため、無念のうちに命を落とした者のため、お照は江戸の町を発走する!
●読みどころ
忙しい現代社会を生きる私たちに、時には立ち止まって心を癒やす時間が必要です。
坂井希久子さんの『髪結いお照 晴雨日記 同業の女』は、そんなひとときを彩る珠玉の一冊。
江戸時代の町人文化を背景に、人間関係の温かさや人生の機微が描かれたこの物語には、心に響く魅力が詰まっています。
・主人公・お照の人間味あふれる魅力
主人公のお照は、腕の立つ髪結い職人でありながら、悩める客たちにそっと寄り添う優しさを持った女性です。彼女は、自分自身も辛い過去を抱えながら、人々の髪を結うことでその心も整えるような存在です。
お照の仕事に向き合う姿勢や人への思いやりには、職人としての誇りと人間としての温かさが感じられます。17才の彼女の生き方が「人とどう向き合うか」という普遍的なテーマを考えさせてくれるでしょう。
・江戸の暮らしを鮮やかに描く情景描写
この作品では、江戸の町が四季折々の情景とともにリアルに描かれています。路地裏の子どもの声、銭湯での井戸端会議、季節ごとの風物詩——これらの描写は、現代の私たちに失われつつある日本の情緒を思い出させてくれます。
読んでいると、まるで江戸の町にタイムスリップしたかのような気分に浸れるでしょう。日々の喧騒から離れ、静かな時間を持ちたい人にとって、この描写は心地よい癒しとなるはずです。
・心に残りセリフ。言葉
「若旦那がお縄になるなら、アタシも無事じゃすまない。自ら自身番に出向いて、洗いざらい喋ってくるさ」悪人だって最後は粋を通すところが江戸っ子だ。
『湿気の少ない爽やかな風が、耳元を吹き抜けていく。』何げなく季節の移ろいを感じさせてくれる。このあと『あとひと月もすればこの風を冷たいと感じるようになるだろう。』と続く。
「棒手振りの兄ちゃんに笑いかけたら、くれたんだ」笑顔の威力ってすごい。笑顔にはすごい価値がある。
「人間生きてりゃ、土砂降りの雨に見舞われることもある。けれどもなるたけお天道様みたいに、明るく笑っていたいもんだ。」これが主人公お照の名前の由来。いい名前だ。
●こんな人におすすめ
・人とのつながりを大切にしたい人
・忙しい日々の中で、家族や友人、同僚との関係を改めて考えたい方。
・江戸時代の風情を楽しみたい人
・時代小説が好きな方や、江戸の町人文化に興味がある方。
・心が疲れている人
●まとめ
坂井希久子さんの『髪結いお照 晴雨日記』は、江戸の町人文化と現代にも通じる人情ドラマが見事に融合した作品です。主人公・お照の人柄、鮮やかな情景描写、そして日常に潜むドラマ—どれをとっても50代の読者に響く要素が満載です。
この本を手に取り、江戸の風を感じながら、自分自身の生き方や周囲とのつながりを見つめ直してみてはいかがでしょうか?
●著者プロフィール
1977年和歌山県生まれ。2008年「虫のいどころ」でオール讀物新人賞を受賞。17年『ほかほか蕗ご飯居酒屋ぜんや」で高田都賞、歴史時代作家クラブ賞新人賞を受賞。著書に「居酒屋ぜんや」「江戸彩り見立て帖」シリーズ、『セクシャル・ルールズ」『華ざかりの三重奏」などがある。引用:文庫裏表紙より